〜 7月便り 〜


 秋のひやおろしやお正月の振舞い酒など、北島酒造では折にふれ、地域の百貨店さんで試飲販売や生原酒の量り売りをすることがあります。そういった催事に行って頂いているのは、接客や営業専門というわけではなく、普段はビンにお酒を詰めたりお酒屋さんに配達したりといった仕事をして下さっている従業員さんです。今月は、父の日の試飲販売に行って下さったTさんの手記を掲載させて頂きたいと思います。

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 毎度の事だけれど、今回も父の日に合わせて試飲販売に行くと言ったら、妻は首をかしげた。何かご不満でも?すると「私、前から不思議に思てたんやけど、あんたて、普段ひとりでいることが多いし、全然社交的な事あらへんし、人付き合いかてめちゃめちゃ下手やん。そんな人が何で試飲販売なん?あれって、直接お客さんにお酒勧めて買ってもらうんやろ。ちゃんとしゃべってるのん?ほんまにお客さんとスムーズに会話してるのん?信じられへんわ。」と彼女は言った。うーむ、失礼な奴だな、と思ったが口には出さなかった。だって当の本人もそう思っているのだ。試飲販売を重ねる毎に、慣れるどころかその難しさに挫折を覚える事の方が多いのだ。それなのに私はこの仕事がどうも嫌いではないのだ。むしろ好んでいると言ってもいい。確かに辛い事も多い。しかし、そんな事も一気に忘れさせてくれるような素敵な出来事もたまにはあるのだ。そんな嬉しい事が今回もあった。

 父の日に合わせた試飲販売をとある百貨店で行った。生原酒を杓(しゃく)でビンに詰めていると、背後に視線を感じたのでとっさに振り向いた。若い女性が立っていた。試飲を勧めると、私はお酒が飲めないのでと断られた。しかし立ち去ることもなく、量り売り用の空きビンを見つめている。「父の日の贈り物ですか。」と尋ねた。続けて、「おいしいお酒ですよ。」と言った。すると彼女は、「これって確か去年もここでやってましたよね。でもビンが違うし・・・。同じ蔵元の方ですか?」と言った。「はいそうです。去年も私が立ってました。」と私。「去年、このお酒を私の父と義父に贈ったんですけど、とてもおいしかったと言ってくれて・・・。今年も父の日が近くなったので、何か欲しい物はと聞くと、去年のお酒がおいしかったなって。それなら今年も同じ物にしようかと思って・・・。」と語った。へえ、そうか。覚えていてくれたんだ。私の拙い口上でも、美味しいお酒であることがちゃんと伝わっている。私は決してプロフェッショナルではないけれど、そう思ってくれる人がここにいる。日本酒を介して、そうした出会いを創り出し、少しでも喜びの時間を共有することが出来る。私がこの仕事に魅かれるのは、きっとこういう瞬間があるからなのだと思える出来事だった。私にとっても良い父の日になり そうな、そんないい1日だった。                
 

7月11日(水) T・Kazu 記



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