〜 3月便り 〜


 まだ固くつぼんでいた店内の桃の花が、一つ、また一つとほころんできました。明日は桃の節句、お雛祭りです。北島酒造のお店では、3種のお雛様がお客様をお出迎えしています。1つは店の奥の座敷の間に見える木目込み人形のお雛様。これは実家の両親が娘の初節句に贈ってくれたものです。もう1つは衣装着の立ち雛スタイルのもの。そしてもう1つは、お酒のディスプレイの横にちょこんと置かれている信楽焼きのミニ雛。これは義母のお友達の手作りとのこと。どれもそれぞれに味わいがあり、ほっと心も桃色に染められるような気がします。お雛様というのは、何がというわけではないけれど、やはり女性にとっては何か特別な存在なのです。

 先日、某新聞社の週間情報誌の方が店内にある水琴窟(すいきんくつ)の取材に来られました。「滋賀県内で耳に出来る音風景」というテーマで、偶然ここが編集室の方の目に(耳に?)とまったようです。ただ残念ながらその音は、通常お客様が来られる日中は、耳をそばだててみてもかすかにしか聞き取ることが出来ないほどの小さな音。私たちの耳がもう慣れきってしまっているごく日常のざわざわした音ですら、この音を聞くには障害になるのです。しかし旅先などで他の水琴窟を聞いてみると、スピーカーの設置等の関係もあるのでしょうが、それはもっとはっきりと、金属音にも近く聞こえます。“うちのはもっとやわらかい音やけどな…。”心を静めるはずのその音が、どうにも耳について落ち着きません。この取材にあたり、水琴窟を造って下さったS造園さんから聞いたお話しで、初めてその理由が分かりました。十三代目がこの水琴窟を造る際に大きくこだわった一つがこの音。“大吟醸酒を搾る時の音に似せたい”ということだったそうです。これで納得。あくまでも自然なこの音には、そんな思いが秘められていたのでしょう。朝晩には、自然に滴り落ちる雫が優しく奏でる“ぽろん”という音が響き渡ります。これを皆様にも聞いて頂けたら、と思うのですが・・・。せめてこの音を聞くためにお水を流された時、そのザーッという音に続く“ぽろろろん”で満足しないで、もう少し後の雫の余韻までゆったりと待ってみて下さい。S造園さんが語られた「現代人に失われつつある、自然を五感で感じる余裕と力」を思い出すきっかけとなれば、と思います。


TOMO
2004年3月2日(火)
 



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